法改正のポイントを分かりやすく解説!〜男性育休推進の成功法と企業の実践例〜

※本コラムは、2022年10月14日(金)に開催をした企業人事 ご担当者向け 無料オンラインセミナー「男性育休推進の成功法 〜法改正のポイントと企業が取り組む実践例〜」の内容を一部抜粋してお伝えしております。以下の内容は、産前教育事業に取り組む「親のがっこう(https://www.oyanogakkou.jp/)」代表 上条 厚子さんにお話をいただきました。

法改正の背景と子育て現場の実情

〈法改正の背景と実情①〉

 厚生労働省は、令和4年4月1日より育児・介護休業法の改正を3段階で施行し、10月1日には、産後パパ育休(出生児育児休業)が創設され、育児休業の分割取得が可能となりました。この施行の背景には、女性の育児休業率が8割を上回る一方で、男性は1割強にしか満たないという現状があります。また、育休期間においても、女性の取得期間が半年以上なのに対して、男性の取得期間はわずか5日程度となっています。一概に数字だけで判断できるものではありませんが、取得率だけでなく取得期間においても男女で大きな差があります。

〈法改正の背景と実情②〉

 近年、子育てを取り巻く環境が大きく変わってきています。4人に1人の女性が産後うつになるとの調査もあり、こうした背景には、大きく2つの要因があると言われています。一つは、核家族世帯の増加、もう一つが働く女性の割合が増えたことです。これらの理由により、母親が一人で子育てを担うという状況も増えており、密室育児と呼ばれることもあります。
 また、自分が産後うつとは気がつかずに、育児ストレスの範囲内と捉えている女性も多いようです。パートナーである男性が積極的に育児に関わる必要性の高まりから法改正に至っているとも言えます。

〈法改正の背景と実情③〉

 会社の産休育休制度はあるものの、「職場の人手が不足していた」「育休を取りたくても取得しづらい雰囲気だった」など職場環境や周囲の理解不足により、希望通りに産休 / 育休を取得できないという声もあります。法改正とともに働く現場の当事者、当事者を取り巻く周囲の理解や意識改革も同時に行っていく必要があるでしょう。
 現代は、核家族や共働き世代の増加により、女性への育児負荷が高まり、ひとりで子育てを担うことが困難な状況が出てきています。パートナーである男性の理解とともに、上司や同僚など職場の理解や体制の構築が求められています。

3段階での法改正の概要とポイントを解説

 ここからは、段階的に施行されている法改正の概要とポイントについて解説をしていきます。大きく、2022年4月、10月、2023年4月の3回に分けて、施行されていきます。

〈 育児 / 介護休業法に関する段階的な法改正のポイント 〉

〈2022年4月〉

①個別の周知・意識確認の義務、雇用環境の整備
 個別の周知・意識確認の義務とは、妊娠を届け出た社員、およびパートナーの妊娠を届け出た社員に対して、「個別に」育休の取得を働きかけることが企業側の義務であることを示します。(例:企業の担当者から「いつ育休を取りますか?」と該当社員に個別にコンタクトを取ることが必須となる、など)
 雇用環境の整備とは、具体的に、(1)育児休業・産後パパ育休に関する研修の実施 (2)相談体制の整備など(相談窓口設置)(3)産後パパ育休取得事例の収集・提供 (4)制度と育児休業取得推進に関する方針の周知の4点です。(1)に関して、管理職は必須と定められており、必ず研修を受講する必要があります。4つ全てを実施することが難しい場合には、最低2つは、企業で取り入れることが望ましいでしょう。

②育児・介護休業取得要件の緩和
 ①に加えて、2022年4月に施行となったのが、「育児・介護休業取得要件の緩和」です。
これまでの制度では、(1)引き続き雇用された期間が1年以上 (2)1歳6ヵ月までに契約が終了することが明らかでない、場合とされてきましたが、2022年4月からは、(1)の要件が撤廃され、(2)のみの適応となりました。これは、1歳6ヵ月までの間に契約が満了する予定がなければ、入社半年の社員の方でも育児休業が認められる内容になっています。

〈2022年10月〉

 ③出生児育児休業の創設
 2022年10月から新設をされたのが、「出生育児休業」です。これは、育休とは別の制度で、男性でも産休が取れるという制度です。具体的には、子供の出生後、8週間以内に4週間までの取得が可能で、取得の2週間前までに申し出をすれば良いというルールになっています。子供の出生に関しては、いつ生まれてくるかめどが立ちにくいことからこのような方針となりました。また、2回までの分割取得です。これは、出生後の退院のタイミングや実家(里帰り出産)から自宅に戻ってくる際の長距離移動のタイミングなど、母子が助けを必要とするタイミングを考慮し、設定されています。加えて、労使協定を締結している場合、休業中に就業が可能であるというのも特徴です。本制度は、1ヵ月前までに申出をすれば、産休中も業務の一部を担いながら、パートナーの産休に寄り添えるような設計になっています。

 ④育児休業の分割取得が可能に
 産休同様、育児休業についても、2回の分割取得が可能になりました。これまで、育休の分割は認められていませんでしたが、今回の改正で分割取得が可能になりました。核家族・共働き世代がスタンダードとなる中で、夫婦で交互に育休を取得し、ともに子育てをしていくことが可能になりました。性別に関係なく、夫婦間の話し合いで決められるように企業が環境を整えましょうといった背景からこのような変更がなされています。

〈2023年4月〉

 ⑤育児休業取得状況の公表義務化
 2023年4月には、従業員1,000人以上の企業において、育児休業取得の状況を公表することが義務化される予定になっています。産休 / 育休を取得する本人だけではなく、企業全体として取り組み推進がさらに求められています。

男性育休推進のポイント

 ここまで、3段階での法改正の概要とポイントについてお伝えをしてきました。男性育休推進のポイントは、制度を作るだけではなく、働く個々人や彼ら彼女らを取り巻く企業の意識変容、風土醸成が重要になってくるということです。
 改正された産休 / 育休の取得率を高め、中身の伴ったものにするために重要なことは、(1)男性本人が「育休の必要性」と「育休中の家庭内での役割」を理解すること (2)女性本人が家事育児の主担当者は、母親であるという抱え込みを解くこと、です。

企業での実践例

 ここでは、具体的に2社の取り組みをご紹介したいと思います。

〈パーソルキャリア株式会社〉

 育休に入ってからの支援ではなく、育休に入る前から正しい情報や知識を持っていただくことを目的に、プレパパ(男性社員向け)講座 / プレママ(女性社員向け)講座 双方を実施しました。「受講後、初めて時間をとって夫婦で向き合い、話ができた」という男性受講者からのお声や、「夫婦から親になるというライフステージの変化や考えを事前に共有することで未然に防げるトラブルがあると感じた」という女性社員の方からの感想をいただきました。当事者になる前に事前に必要な情報提供をすることで、出産後、両立に悩む男性・女性を減らすことにもつながるのではないかと思います。

〈BIGLOBE株式会社〉

 BIGLOBE様では、共働きの妻を持つ男性社員向けに研修をさせていただきました。研修内では、“名もなき家事”から意識変容をしていくというプログラムを実施。名もなき家事を知る前と後では、男性陣の家事をしている割合(認識)にも変化があり、「もっと家事をやっているつもりでいたが、全然把握できていなかった」といったお声を多くいただきました。

 行動変容を起こすファーストステップは、「未認知を認知する」ことです。また、無意識なことに対して適切な気づきを持ってもらうことが必要です。男性だけでなく、産む性である女性側の思い込みや抱え込みについても、無意識の(思い込み)に気づくことで、彼女たちの意識変化や行動改善を促すことができます。
 今回、この法改正というタイミングを活用し、子供を持っても夫婦(男女)双方が幸せに働き続けられる転機として、企業内でも環境整備を進めていただければと思います。

まとめ

 本コラムでは、男性育休推進に向けた法改正のポイントと企業における具体的な取り組み事例をお伝えしました。核家族世帯や働く女性の割合増加により、夫婦共同での出産・子育ての必要性がますます高まってきています。そうした時代背景や働く個人の価値観の変化に合わせた法改正が進む中で、企業においても出産・子育てをしやすい環境や制度の整備が求められています。この法改正を機に、個人・企業双方が認識や行動をアップデートし、働きやすく、働きがいのある社会の実現に努めていきましょう。