育児短時間勤務制度とは?働きやすい職場を考える

仕事と家庭の両立ができる働き方の実現をするため、2009年の育児・介護休業法の改正により「育児短時間勤務制度」の導入が企業に義務付けられました。「育児短時間勤務制度」とは、一般的にワーママが利用することの多い「時短」「時短制度」と呼ばれているものです。

2016年の法改正では、さらに育児や介護を理由としたハラスメントの防止が義務付けらるなど、時代の流れと共に法律の内容も変化しています。

ここでは、育児短時間勤務制度の基本情報と条件、給与、社保等の詳細を解説していきます。導入事例、運用上の注意点、制度を利用する従業員が抱えやすい不安と対策についてもご紹介していきながら、働きやすい職場について一緒に考えていきましょう。

目次

育児短時間勤務とは?:制度の基本情報

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育児短時間勤務とは、3歳未満の子どもを養育する従業員が希望した場合、勤務時間を短縮できる制度です。企業は従業員規模に関わらず制度を設けなければならず、1日の勤務時間を原則6時間に短縮する必要があります。

育児休業法の改正は、もともと仕事と育児の両立を支援する目的で行われました。各種調査や実証研究から、日本の少子化を招いている要因には子育てをしながら就業継続できる見通しが立たないと感じる人が多いことや、仕事と育児のバランスが取れなくなる人が多いことにも起因していると考えられたためです。

以下、制度の基本情報をみていきましょう。

参考:『改正育児・介護休業法 参考資料集』厚生労働省雇用均等・児童家庭局
職業家庭両立課
https://www.mhlw.go.jp/bunya/koyoukintou/ikuji_kaigo_shiryou/dl/ikuji_kaigo_01.pdf

育児短時間勤務の利用状況

育児短時間勤務は全ての企業に義務付けられている制度ですが、現状、従業員規模、雇用形態によって利用状況が異なる傾向があります。

2018年に厚生労働省が実施した「仕事と家庭の両立に関する実態把握のための調査研究事業報告書」によると、育児休業取得後に短時間勤務制度を利用した無期契約労働者(正社員等)の割合は、100人以下の全体では28%、101人以上の全体では68.9%でした。また、同じ項目での有期契約労働者の割合は、100人以下の全体では6.2%、101人以上の全体では19.4%でした。

続いて、育児短時間勤務制度の取得期間の傾向は、無期契約労働者(正社員等)で子どもが3歳までに取得する割合は100人以下の全体では29.5%、101人以上の全体では39.1%でした。また、同じ項目での有期契約労働者の割合は、100人以下の全体では6.1%、101人以上の全体では17.3%でした。

このことから育児短時間勤務は、従業員規模が大きくなるほど利用割合が高くなる傾向にあり、また無期契約労働者(正社員等)の方が有期契約労働者よりも取得率が高くなる傾向にあることがわかります。

従業員規模の大小や雇用形態に関わらず義務付けられている制度ではあるものの、まだまだ制度の浸透には課題があることがうかがえます。

参考:『仕事と育児等の両立に関する実態把握のための調査研究事業 平成30年度厚生労働省委託事業(企業調査全体版)』
https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000534371.pdf

育児短時間勤務の対象者

育児短時間勤務の対象となる労働者は、次の5つ要件を「全て」満たす必要があります。性別や雇用形態は問いません。

1)3歳に満たない子を養育する労働者であること。
2)1日の所定労働時間が6時間以下でないこと
3)日々雇用される労働者でないこと。
4)短時間勤務制度が適用される期間に現に育児休業をしていないこと。
5)労使協定により適用除外とされた労働者でないこと。

改正前は「実子」「養子」など、法律上の親子関係がある子どもに限定されていましたが、2017年の法改正で、特別養子縁組の監護期間中の子や養子縁組里親に委託されている子どもも対象になりました。

5)について、労使協定により短時間勤務制度の対象外とすることができる労働者は以下の通りとなっています。

ア) 当該事業主に引き続き雇用された期間が1年に満たない労働者
イ) 1週間の所定労働日数が2日以下の労働者
ウ) 業務の性質又は業務の実施体制に照らして、短時間勤務制度を講ずることが困難と認められる業務に従事する労働者

ただし育児・介護休業法の趣旨を踏まえ、上記の対象外とすることができる労働者についても、労使間の工夫でできる限り適用対象とするよう努めることとされています。育児短時間勤務が取れるかどうかはとても重要なことです。対象外となる場合は本人が納得できるよう、より丁寧な説明が必要です。

また、ウ)の短時間勤務を講じることが難しい労働者については、代替措置として以下のいずれかの制度を講じなければなりません。

a)育児休業に関する制度に準ずる措置
b)フレックスタイム制度
c)始業・終業時間の繰上げ・繰下げ(時差出勤の制度)
d)従業員の3歳に満たない子に係る保育施設の設置運営その他これに準ずる便宜の供与

参考:『短時間勤務制度(所定労働時間の短縮等の措置)について』厚生労働省雇用均等・児童家庭局職業家庭両立課

https://part-tanjikan.mhlw.go.jp/navi/manual/doc/attention.pdf

3歳までって本当?育児短時間勤務の利用期間

原則、子どもの3歳の誕生日前日までが対象です。ただし、改正育児・介護休業法(第24条第3項)において、「小学校就学の始期に達するまで」は必要な措置を講ずることを事業主の努力義務としています。

言い換えると、6歳になった日以降の最初の3月31日までの子を養育する労働者に関して、育児と仕事の両立を支援する措置を考えましょうということになります。こうした法律により、「子どもが3歳まで」ではなく、小学校にあがる直前まで育児短時間勤務を取得できる企業も増えてきています。

参考:『育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(第24条第3項)』電子政府の総合窓口 e-Gov[イーガブ]
https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=403AC0000000076#204

育児短時間勤務の勤務時間

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育児短時間勤務は、1日の労働時間を原則として6時間としています。「原則」としている理由は、企業によっては所定労働時間を一般的な8時間ではなく、7時間45分としているところもあるためで、育児短時間勤務になった際の時間を5時間45分から6時間までとして幅をもたせるためです。

5時間勤務や7時間勤務は可能?

結論から言うと、6時間以外の勤務時間については企業の判断に委ねられています。

改正育児・介護休業法では育児短時間勤務を取得した場合、勤務時間を「5時間45分から6時間まで」としなくてはいけないと定められています。つまり、それより長くても短くても、法的な基準を満たしたことにはなりません。

5時間勤務や7時間勤務を選択できるかどうかは企業が決めることができます。「5時間45分から6時間まで」以外の選択肢を増やす場合には就業規則にきちんと記載し、どのようなパターンで働くかは従業員と話し合いをして決めましょう。

育児短時間勤務中の残業は可能?:所定外労働の制限について

育児短時間勤務中の従業員の残業は可能です。

改正法では、育児短時間勤務中の日々の残業については規制されていません。しかし「仕事と家庭の両立ができる働き方の実現をするため」という制度の趣旨から考えると望ましいことではありません。

また、育児短時間勤務中でも、「所定外労働の制限(免除)」の措置を併せて請求することができます。所定外労働時間の制限を請求している労働者には残業を命ずることはできないので注意が必要です。

「所定外労働時間の制限」とは3 歳に満たない子を養育する従業員から申出があった場合、所定外労働をさせてはいけない、とするもので、残業が免除される措置のことです。育児・介護休業法の第16条第8項に定められています。

所定外労働時間の制限は何度でも請求ができます。1回の請求につき「1か月以上1年以内」の期間内で、開始と終了の日を明らかにした申出書を人事担当者に提出する必要があります。

参考:『育児_介護_あらまし_本文』厚生労働省 都道府県労働局雇用環境・均等部(室)
https://www.mhlw.go.jp/bunya/koyoukintou/pamphlet/dl/34_10.pdf

育児短時間勤務中の給与と賞与

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仕事と家庭を両立する上での働きやすさという面ではメリットの多い「育児短時間勤務」ですが、気になる点は給与や賞与への影響です。育児短時間勤務中の給与や賞与について育児・介護休業法ではどのように定められているのでしょうか。

給与と賞与への影響

育児短時間勤務制度を利用して短くなった勤務時間分について、改正育児・介護休業法では特に賃金の保証はされていません。つまり、企業は働いていない時間分の給与は支給しなくて良いことになります。

中には、短縮時間分の給与を補填する企業もありますが、短縮する時間に応じて減給とする企業の方が多いようです。これは経費面でのメリットだけでなく、育児短時間勤務を利用していない他の従業員との不公平感を和らげる意味でも有効とされています。

賞与については、給与額や労働時間によって算出される場合、給与と同じく減額になります。いずれの場合も、労働時間の短縮分以上の減額は禁止となっています。

労働者にとって給与の減額はその額に関わらず重要なことです。就業規則への明文化、社内周知の徹底はもちろん、減額についてきちんと説明できるようにしておきましょう。

他の手当への影響

手当には法律で定められているものと、各企業ごとに定めているものの2種類があります。法律で定められているものには「残業手当」「深夜残業手当」「休日出勤手当」があり、企業独自のものは、例えば「家族手当」「住宅手当」「役職手当」等があります。

月単位で支給される手当については、勤務時間の長さによって支給される性質のものではないと考えられるため、減額することで不利益な取扱いに該当しないように注意する必要があります。

育児短時間勤務中の保険と年金

育児短時間勤務は原則1日6時間労働のため、事業所の業種や規模によって社会保険の加入条件が異なりますが、基本的には週5日勤務の正規雇用社員が育児短時間勤務により社会保険の加入条件から外れる可能性は低いでしょう。

「時短にしたら想像以上に給与が減って驚いた」という声を聞くことは少なくありませんが、その理由は、社会保険料の認識に原因があることが多いようです。社会保険料は毎月の給与を基準として金額が決定するため、給与が減ると社会保険料も減額されます。しかし、減額される社会保険料は給与の減額に比べてごくわずかです。そのため時短になったことで待遇が悪くなったと感じられてしまいます。

3歳以下の育児を理由にした育児短時間勤務であれば、一定の条件の下、会社を通して以下の申請をすることで、負担を緩和できます。基本的には労働者からの申請となりますが、こうした情報を人事側から発信することは、労働者の不安の解消や企業への信頼感にも繋がるでしょう。

育児休業等終了時報酬月額変更届の提出

育児休業後すぐに短時間勤務を利用して給与が減った場合、3歳未満の子を養育しており一定の条件を満たす場合は月々の社会保険料を下げることができる、というものです。労働者からの申し出を受けた企業が「育児休業等終了時報酬月額変更届」を事業所の所在地を管轄する年金事務所に電子申請又は郵送又は持参する必要があります。

参考:『育児休業等終了時報酬月額変更届の提出』日本年金機構
https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/hokenryo-kankei/menjo/20150407.html

養育期間の従前標準報酬月額のみなし措置

育児短時間勤務中は給与が減額され「標準報酬月額も下がる=将来支給される年金額も下がる」ことになります。

「養育期間の従前標準報酬月額のみなし措置」とは、子どもが3歳までの間、勤務時間短縮等の措置を受けて働き、それに伴って標準報酬月額が低下した場合、子どもが生まれる前の標準報酬月額に基づく年金額を受け取ることができるというものです。

この特例措置は2年前までさかのぼって申請することができ、労働者からの申し出を受けた企業が、「厚生年金保険養育期間標準報酬月額特例申出書」という書類を事業所の所在地を管轄する年金事務所に電子申請又は郵送又は持参する必要があります。

参考:『養育期間の従前標準報酬月額のみなし措置』日本年金機構
https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/hokenryo-kankei/hoshu/20150120.html

育児短時間勤務中の有給取得と退職

育児短時間勤務中に有給休暇を取得した場合の給与額や付与数はどうなるのでしょうか。また、退職の際のポイントをおさえておきましょう。

育児短時間勤務中の有給取得

有給休暇は過去の労働に対する付与のため、付与日に全日数を与えなければなりません。また、2010年4月1日より、労使協定を締結すれば年に5日分までは時間単位で取得できるようになりました。

有給として支給する賃金については、実際の勤務時間に基づいた金額を支給するため、例えば1日の所定労働時間が8時間だった労働者が、短時間勤務制度の利用で1日6時間勤務となった場合、6時間分の賃金を支払うことになります。

また付与日数については、所定労働「時間」を短縮した場合でも従来通りの日数を付与する必要があります。一方で、所定労働「日数」を短縮した場合については、短時間勤務制度の利用開始以前に付与した日数の繰越分はそのままですが、新たに付与する分については所定労働日数に応じて付与日数を変更することができます。

参考:『しっかりマスター労働基準法ー有給休暇編ー』厚生労働省 東京労働局 パンフレット 労働基準
http://www.roumu.or.jp/data/pdf/20090310_roudou_yuukyuu.pdf

育児短時間勤務中の退職

育児短時間勤務中の退職金について、どのように算出するか法の定めはありません。つまり、企業ごとに決めることができます。但し、算出方法などルールを決めて就業規則に明記する必要があります。

退職金の代表的な算定方式としては、「最終給与比例方式」と「点数方式(ポイント制)」があります。

「最終給与比例方式」で「算定基礎額(基本給等)」×「掛け率(勤続年数等)」で算出している場合は、以下のような方法が考えられます。

・算定基礎額を調整する方法・・・育児短時間勤務中の期間については、育児短時間勤務中の基本給を算定基礎額として育児短時間勤務期間を乗ずる。
・掛け率を調整する方法・・・フルタイム時の基本給に総勤務年数から育児短時間勤務期間に短縮した勤務時間の割合を乗ずる。(例えば所定労働時間が8時間の企業で3年間6時間勤務していた場合は、総勤続年数+3×0.75を基本給に乗じる)

「点数方式(ポイント制)」で算出している場合は、勤続年数や等級格付け等に応じてポイントを付与することが多いため、勤続年数に応じて付与するポイント分のみ、育児短時間勤務期間分を減ずる方法もあります。

いずれの場合も、退職金の算出で一番気をつけなくてはいけないことは「不利益な取扱い」をしないということです。育児短時間勤務の短縮時間を超えて減じたり、その期間を働かなかったものとして取り扱うことは「不利益な取扱い」に該当するため注意が必要です。

参考:『就業規則における育児・介護休業等の取扱い』厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/general/seido/koyou/ryouritu/kiteirei/1.html

参考:「『短時間正社員制度』導入・運用支援マニュアル~人材活用上の多様な課題を解決~」厚生労働省 短時間正社員導入支援ナビ 資料ダウンロード
https://part-tanjikan.mhlw.go.jp/navi/download/pdf/sogo_manual_r02.pdf

育児短時間勤務における不利益な取扱いとは?

育児・介護休業法では、短時間勤務制度の申出や適用を受けたことによる不利益な取扱いを禁止しています。不利益な取扱いとは、制度の申出や利用などを理由に、例えば「解雇」「雇い止め」「減給」「降格」などを行うことを指します。

前述した通り、予め就業規則に明記し説明をした上で、短縮した時間分の給与を支払わないことや短縮された勤務時間を考慮に入れて賞与の算出を行うことは不利益な取り扱いにはあたりません。

育児短時間勤務:労働者のメリットとデメリット

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労働者のメリットは、なにより仕事と家庭の両立がはかりやすくなる点です。これまで、出産後は仕事と家庭のどちらかを選択せざるを得なかった人が、育児短時間勤務を利用することで育児をしながらキャリアを築くという第3の選択肢ができました。

デメリットとしては、時間が短縮されることによる給与や賞与の減額が挙げられます。また、ハードワークで疲労が溜まってしまうケースや逆にマミートラックと呼ばれる簡単な業務内容に物足りなさを感じてしまうケースなど、勤務時間と業務内容や量のバランスにはまだまだ課題が残ります。周囲に配慮し協力しながら、限られた時間内で出来ること出来ないことを明確にして業務を進めることが必要です。

育児短時間勤務でよくある質問とトラブル例

ここでは育児短時間勤務でよくある質問とトラブル例を説明します。事前に就業規則や従業員向けの説明資料等に記載するなどしておくと、利用する側にとってわかりやすく、また未然にトラブルを防ぐことができるでしょう。

【質問】 夫婦で利用できる?

夫婦での利用は可能です。先述した「労使協定により短時間勤務制度の対象外とすることができる労働者」の中に「配偶者が育児短時間勤務中である」の記載はありません。

【質問】 他の制度と併用できる?

働く時間を調整する制度としては、他に「フレックス制度」や「時差出勤」や「介護短時間勤務」といったものがありますが、これらとの併用について現在法的な基準は特にありません。

【質問】 育児短時間勤務は延長可能?

2009年の改正法では、3歳から小学校就学の始期に達するまでの子を養育する労働者には、努力義務として以下の4点のいずれかの措置を講じるよう定められています。小学校卒業以降については現状法的な決まりはなく、企業ごとの判断となります。

ア) 育児休業に関する制度
イ) 所定外労働の制限に関する制度
ウ) 短時間勤務制度
エ) 始業時刻変更等の措置

参考:『3 小学校就学の始期に達するまでの子を養育する労働者等に関する措置(法第24条第1項及び第2項関係) (p.41)』厚生労働省:平成21年改正法解説資料
https://www.mhlw.go.jp/topics/2009/07/dl/tp0701-1o.pdf

【トラブル例】 前例がない企業での取得が難しい

育児短時間勤務を利用した前例がない企業では、企業側が取得を断るだけでなく、取得可能か確認をする前に慣習に習って自ら退職してしまう人もいます。育児短時間勤務制度の導入は全ての企業に義務付けられていますので、速やかに制度を整えて、育休取得者には企業側から育児短時間勤務についての案内をすると良いでしょう。

【トラブル例】 短時間勤務により企業内で孤立してしまう

育児短時間勤務の利用が初めての場合や、企業内に利用者が少ない場合は特に注意が必要です。育児短時間勤務で労働時間が減ったことにより他の従業員が負担増を感じ、結果として利用中の労働者が申し訳なさや引け目を感じてしまうことはよく聞くことです。

ふとしたことから関係性が崩れ、心ない言動などハラスメントに繋がることがあります。就業規則にハラスメントの防止について明記するだけでなく、相互理解に繋がるような双方への働きかけや対策を講じると良いでしょう。

育児短時間勤務:企業のメリットとデメリット

企業のメリットは優秀な人材が出産や育児により社外に流出することを防げるということです。また、近年では中途人材の採用において入社時から時短で働く「時短正社員」での採用スタイルもあります。この場合は育児短時間勤務制度をしくことで、隠れた優秀な人材の確保に繋がります。

他にも、育児短時間勤務の従業員がいることによって生産性の向上や業務効率化が進むことが期待されています。

デメリットとしては、従業員管理の複雑化や育児短時間勤務利用者とそれ以外の従業員との業務バランスによる不公平感が生じやすい点です。

導入の他社事例(モデルケース)

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2020年に日経DUALが独自の指標で集計した「共働き子育てしやすい企業ランキング」の上位10位に入った企業から3社をピックアップし、なぜ共働き家庭に支持されたのか、育児短時間勤務の導入事例や、その他企業の取り組みについてご紹介します。

参考:『共働き子育てしやすい企業2020 トップ10発表』働くパパとママを支えるWEBメディア日経DUAL
■調査概要/『日経WOMAN』と「日経ウーマノミクス・プロジェクト」が「企業の女性活用度調査」を実施。2020年1月~2月中旬に上場企業など国内有力企業4449社を対象に調査票を送付し、542社から回答を得た。
https://dual.nikkei.com/atcl/feature/19/043000035/051200001/

日本生命保険

育児短時間勤務だけではなく多方面からの施策を行い成功している事例です。

実は日本生命保険では、2015年から2019年の5年間で短時間勤務者は約5%減少しています。その理由は育児短時間勤務を使わなくても良いくらい、働きやすい環境が整ってきたためです。

例えば「育児短時間フレックスタイム制」は、養育する子が小学校就学後最初の8月末日迄、所定の労働時間を短縮しながら、始業終業時刻を柔軟に設定可能な制度です。また、小学校入学迄の子を看護するために年間10日の特別休暇を取得可能な「看護休暇」も付与されます。

従業員の約9割が女性社員のため、早くから家庭と仕事の両立のための動きは進んでいました。近年女性活躍推進を含むダイバーシティ推進を経営戦略と位置付けて力を入れて取り組んでいます。

2008年に「輝き推進室」という、両立支援制度拡充や女性の活躍領域拡大、男性や管理職の意識・行動改革に取り組み始めました。2015年からは社長を筆頭にワークスタイル変革や柔軟な働き方推進を「人財価値向上プロジェクト」として行っています。

長時間労働の是正や男性育休取得率100%を6年連続達成(実績数約1,600人)、産前産後休暇の全期間を有給扱いとするなど多方面からのサポートにより、働きやすさだけでなく従業員のキャリア形成や満足度向上に繋がっています。

参考:『女性が輝く先進企業表彰・表彰企業紹介(令和元年度)』男女共同参画局
http://www.gender.go.jp/policy/mieruka/company/hyosyo01.html

参考:『従業員への取組』日本生命保険相互会社 企業サイト
https://www.nissay.co.jp/kaisha/csr/jugyoin/

資生堂

「(女性の)家庭と仕事の両立」から更に一歩進んで「男女ともに両立しながらキャリアアップを目指す」という一石を投じた事例です。

1872年の創業後、女性の美しさやライフスタイル実現を掲げ、早くから「女性に優しい企業」のブランドを確固たるものにしてきた資生堂は、2014年に子育て中の美容部員に対し、夕方以降や土日の勤務を可能な限り行うよう求めました。このことは、既存の企業イメージを覆すものとして「資生堂ショック」と呼ばれ、ニュースとしても大きく取り上げられました。

但し、本質を見ると資生堂は決して働く女性に対して厳しくなったわけではありません。資生堂はグループ全体で女性比率は85.6%、育休取得率1,360人、育休後の定着率100%(2019年度データより)という企業で、このデータからも女性が働きやすい企業であることがわかります。

育児短時間勤務については小学校3年生まで制度利用を可能としており、有期契約社員も法定以上の期間取得が可能です。

このように、1990年以降に進めてきた両立支援は引き続き行いながら、事業所内保育所の設置やテレワーク及びサテライトオフィスの活用促進、全社消灯、定時退社デー等の実施を進めたことで、長時間労働者の減少や時間外労働の半減に成功しています。

また、子育て中の従業員との個別面談を実施することで、子育て中の従業員の98%が働き方を見直しキャリアアップを意識するようになったという結果が出ており「男女ともに両立しながらキャリアアップ」という次のステージに向けて着実にリードしています。

参考:『女性が輝く先進企業表彰・表彰企業紹介(令和元年度)』男女共同参画局
http://www.gender.go.jp/policy/mieruka/company/hyosyo01.html

参考:「サスティナビリティ『企業データ』」株式会社資生堂 企業サイト
https://corp.shiseido.com/jp/sustainability/performance/social/

参考:『ダイバーシティ・インクルージョン』株式会社資生堂 企業サイト
https://corp.shiseido.com/jp/sustainability/labor/diversity.html

参考:『働きがいのある職場の実現』株式会社資生堂 企業サイト
https://corp.shiseido.com/jp/sustainability/labor/working.html

アクセンチュア

世界最大規模のコンサルティングファームであるアクセンチュアは、全従業員の女性比率は34.5%、女性社員の育児休業取得率は100%です。アクセンチュアの特徴は、社員がライフステージによって働き方を選択できることです。

例えば「できるだけ休んで子育てに専念したい人」「仕事はしたいが働く時間を調整したい人」「出産前と同様フルタイムで働きたい人」それぞれを良しとして、理想のワークライフバランスで働き続けるための制度が用意されています。

具体的には、月内の標準総労働時間の枠内で、従業員が各日の始業および終業の時刻を決めることのできる「フレックス制度」や、利用時間に制限のない「在宅勤務制度」など、柔軟に働くことのできる制度があります。

また、小学校就学前の子の怪我、疾病、あるいは予防のため、子の人数に応じて年間40時間または80時間の休暇を取得できる「子の看護休暇」、子を育てるための時間を有給扱いで取得できる「育児休憩時間」制度、ベビーシッター利用にあたり、初期費用の100%、利用費の50% (上限2万円/月)を会社が負担する「ベビーシッター補助」制度など育児と仕事との両立で起こりうる困難を支援する制度があります。

2015年4月からは、「Project PRIDE」として本格的に組織風土改革に取り組み始め、経営陣やリーダー役割を明確にした上で、ハラスメントの抑止や労働時間管理、残業の適用ルールの厳格化など、人を活かす組織づくりに力をいれています。

参考:『女性が輝く先進企業表彰・表彰企業紹介(令和元年度)』男女共同参画局
http://www.gender.go.jp/policy/mieruka/company/hyosyo01.html

参考:『About Accenture』アクセンチュア株式会社 企業サイト
https://www.accenture.com/jp-ja/about/company/project-pride

参考:『採用情報』アクセンチュア株式会社 企業サイト
https://www.accenture.com/jp-ja/careers/local/women-careers

参考:『福利厚生・制度・手当』アクセンチュア株式会社 企業サイト
https://www.accenture.com/jp-ja/careers/local/benefits

育児短時間勤務導入のために企業が整備すべきこと

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育児短時間勤務は運用しているだけではいけません。ここでは企業が育児短時間勤務導入に伴い整備する必要がある事項について説明します。

就業規則への明記と従業員への周知

育児短時間勤務は運用しているだけではなく、就業規則として明記し従業員への周知を行い、制度化されている必要があります。制度導入のマニュアルや規程例がありますので、そちらを参考に抜け漏れのないよう整備しましょう。

従業員の周知は「全体」「経営層、管理職」「制度対象者」となります。その際は制度の内容だけでなく、導入の背景や意義についての説明や、疑問点不安点の解消をすることが大切です。従業員にきちんと理解し納得を得た上で導入することでハラスメントの予防にも繋がります。

なお、就業規則を変更したときは、所轄労働基準監督署長への届出も忘れずに行いましょう。

参考:「~円滑な育休取得から職場復帰に向けて~中小企業のための”育休復帰支援プラン『策定マニュアル(改定版) 』」厚生労働省 中小企業のための育休復帰支援モデルプラン改定・周知事業
https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000344772.pdf

参考:『育児・介護休業等に関する規則の規定例』厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/bunya/koyoukintou/pamphlet/35.html

給与や評価方法に関する事項の明記

育児短時間勤務における給与や評価方法については、後々トラブルの元になりやすい部分です。勤務時間や条件、算出方法などについてきちんと明記し、減給の根拠を説明できるようにしておくと良いでしょう。

契約書について

就業規則に必要事項が明記されている場合、制度利用者と特に契約書を結び直す必要はありません。

申請手続き(申出書)について

基本的には企業が手続きの詳細を決めることになります。一般的には「開始期間の1ヶ月前までに」「育児短時間勤務申出書」を人事担当者に提出することとしているところが多いようです。

厚生労働省のページには、「社内様式例」として申出書や通知書の例がダウンロードできますので参考にすると良いでしょう。大切なのは労働者が分かりやすく利用しやすい形であることです。

参考:「育児・介護休業等に関する規則の規定例『育児短時間勤務申出書』(p.62)」厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/content/11909000/000357900.pdf

企業が注意すべきこと:ハラスメント防止対策

2016年の改正育児・介護休業法では、第25条で「育児休業等に関するハラスメントの防止措置」を定めています。対象となる労働者は、「パートタイム労働者、契約社員などの有期契約労働者を含む、事業主が雇用する全ての男女労働者です。また、派遣労働者については、派遣元事業主のみならず、派遣先事業主も自ら雇用する労働者と同様に、措置を講ずる必要があります。」としています。

今回の改正では、従来の育児・介護休業法で定められていた、労働者の解雇などといった不利益な取り扱いだけでなく、上司や同僚からの否定的な言動や嫌がらせなどもハラスメントに含まれることになりました。

ハラスメント防止対策として、プライバシーを確保した上での相談窓口を設けることや、ハラスメントに適切に対応するための体制整備が必要です。同時に、原因や背景となる要因を解消するための周知や啓発、制度作りについても、しっかり取り組んでいきましょう。

参考:『育児・介護休業法のあらまし』厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/bunya/koyoukintou/pamphlet/dl/34_01.pdf

育児短時間勤務について:お役立ちサイト

「両立支援のひろば」・・・厚生労働省が運営する両立支援総合サイトです。101人以上の社員を雇用する企業に策定・届出が義務付けられている一般事業主行動計画が簡単に作成できる「両立診断サイト」の機能や両立支援に取り組む企業事例、働く人や事業主向けのQ&Aが載っています。
https://ryouritsu.mhlw.go.jp/index.html

「男女共同参画局」・・・男女共同参画社会を実現するための法律、基本計画、関係予算等のほか、男女共同参画に関する政策・活動等の情報を掲載しています。「企業における見える化」のページでは、女性が輝く先進企業の事例などが掲載されています。
http://www.gender.go.jp/index.html

「厚生労働省」育児・介護休業法について・・・厚生労働省の「育児・介護休業法」についてまとめられているページです。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000130583.html

まとめ

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育児短時間勤務は全ての企業に義務付けられている制度ですが、決して「義務付けられているから導入するもの」ではないと感じます。

制度の導入をきっかけに、企業が大切にしたい価値観や、働いている従業員に築いていって欲しいキャリア等を改めて考え、一方通行にならないよう従業員の声も聞きながら、企業ごとの「働き方」や在り方を作っていけると良いですね。

また、育児短時間勤務制度について検討することは必然的に、育児をする人だけではなく全従業員の働き方を見直し、多様性を尊重した組織づくりへと繋がるのではないでしょうか。

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