在宅勤務を導入している企業の成功事例8選

昨今、在宅勤務を導入し活用する企業が増えています。在宅勤務を希望する女性にとって、企業の選択肢が増えることは喜ぶべき状況です。しかし、在宅勤務を導入した企業すべてが良い結果を出しているわけではありません。残念ながら導入が上手くいかず、収益に悪影響が出ている企業もあります。そのような企業で在宅勤務を希望しても、理想の働き方を実現するのは困難でしょう。ここでは、在宅勤務を導入している企業の成功事例を紹介します。在宅勤務を始めるときの参考にしてみてください。

企業が在宅勤務を導入する理由

在宅勤務とは、自宅で働く労働形態のことです。従来のようにオフィスに出向いて仕事をするのではなく、インターネットを通じてオフィスの上司や同僚とコミュニケーションを取り合い、オンラインで遠隔業務を行います。在宅勤務と似たような言葉にテレワークやリモートワークがあります。テレワークとリモートワークは、オフィス以外の場所で業務をこなす新しいワークスタイルで情報通信技術(ICT)を活用した場所に縛られない柔軟な働き方を意味しています。在宅勤務、テレワークやリモートワークの一形態です。在宅勤務は、働く場所が自宅に限られますが、テレワークやリモートワークはカフェやコワーキングスペースなど、自宅以外の場所で仕事をする働き方も含まれます。

近年は在宅勤務を導入する企業が増えています。在宅勤務が注目される最大の理由は、人手不足の解消です。少子化が進む日本では、労働人口が減少しており、どの企業も人材不足が大きな課題となっています。在宅勤務を導入すれば、オフィスに出社するのが難しい子育て中のママや、介護中の社員なども働き続けることができるため、離職防止に役立ちます。これまで以上に幅広い人材を労働力として得られるため、生産性を向上できるなど、の高い働きが見込まれるなど、企業にとって多くのメリットがあります。

在宅勤務はコスト削減にも効果的です。オフィスに出社する社員が減れば、オフィスを縮小することができるため、賃料や光熱費などのコストを大幅削減できます。通勤も必要なくなるので、交通費なども削減できるでしょう。なによりも出産や介護等の家庭の事情によって退職する社員を防止できるため、人材獲得や社員の教育費などのコストも抑えられます。在宅勤務を導入するときは、ICT関連の初期費用がかかりますが、長期的なランニングコストを考えれば、オフィスでの勤務よりも在宅勤務のほうが低コストです。また、在宅勤務では資料や書類などをデータ処理して業務を進めていくため、紙や印刷にかかるコストも削減できます。

在宅勤務
は感染症対策として注目されています。感染症の拡大を防ぐには、オフィスへ出社する従来の働き方よりも、外出しない在宅勤務のほうが適しています。実際、新型コロナウィルス対策で、多くの企業が在宅勤務を導入しています。万が一オフィスでクラスターが発生しまえば、一時的にオフィスを閉鎖する事態に追い込まれます。そのようなリスクを防ぐうえでも、在宅勤務は効果的です。もともと東京オリンピックの交通混雑対策として在宅勤務の導入準備していた企業はありますが、新型コロナウィルスの感染拡大に伴い、日本の多くの企業が在宅勤務を導入するようになりました。在宅勤務がこのまま拡大していけば、女性が子育てをしながら快適に働ける環境も今以上に整備されていくでしょう。

台風や大雨等で通勤ができないときも、在宅勤務であれば通常通り仕事ができます。天候に左右されずに仕事ができるため、生産性の低下を防止するうえでも効果的です。在宅勤務の導入には通信環境の整備が必要不可欠です。導入時は手間やコストがかかりますが、一度導入してしまえば、業務が効率化され、生産性アップを期待できます。

在宅勤務
が普及し始めた背景には、国のバックアップもあります。日本政府は国の成長戦略としてテレワークや在宅勤務を推進しており、在宅勤務を導入する企業に助成金を支払雨などの施策を行っています。国だけでなく自治体の導入支援制度や補助金・助成金制度などもあるため、これらの支援を活用すれば、在宅勤務導入時のコストを大幅に抑えられます。このような支援も、企業の在宅勤務導入を加速化させています。

在宅勤務で成功している企業事例8選

在宅勤務は準備しながら段階的に導入する事例が多くあります。いきなり大規模に実施してしまうと、企業の制度やツールなどが対応しきれず、失敗につながるケースがあります。そのため、事前にトライアルを実施する、対象者を絞るなどの工夫が必要です。ここではいち早く在宅勤務を実施し、課題解決をした企業を紹介します。

情報通信業大手のヤフー株式会社は、2014年から「どこでもオフィス」と題したテレワークを開始。社員が自らの能力を最大限発揮できるよう柔軟な就業環境の整備を進めたところ、社員の満足度が向上したほか、産休復職率97.2%を達成されるなど、多岐にわたる効果が確認されました。2020年2月からはリモートワークの制限解除や社内研修などのオンライン化などを段階的に進め、95%の従業員が在宅勤務で業務に従事しています。普段とは異なる環境から刺激を受けた結果、アイデア創出が促進されたほか、社員のワークライフバランスが改善されるなど好結果が見られ、92.6%の従業員から「リモート環境でもパフォーマンスへの影響がなかった」「向上した」との回答を得ています。IT企業の場合、必要な環境が整備されればオフィス出社と遜色のない効果を上げられるため、全面的なテレワーク導入でもメリットが大きいといえるでしょう。

製菓大手のカルビー株式会社は、2010年から営業職の直行直帰型の勤務を開始、2013年6月〜9月に在宅勤務のトライアルを実施するなど、早い段階から在宅勤務を導入していた企業です。2014年からは事務部門の従業員を対象に本格的に在宅勤務制度を導入し、翌年にはリモートワーク利用者が2倍に増えるなど成果を出してきました。従業員からも「ワークライフバランスが向上した」「子どもの送迎がしやすくなった」といったアンケート結果を得ており、従業員の満足度向上を実現しています。これらのリモートワークの利用実績が認められて、2015年厚生労働大臣賞(輝くテレワーク賞)を受賞しています。さらに、新型コロナウイルス感染症の拡大に伴いテレワークを徹底した結果、感染防止に役立っただけでなく、社員の通勤時間の削減、新しいコミュニケーションスタイルの浸透、ITによる業務効率化などの新たなメリットを得ました。カルビー株式会社では今後、テレワークを基本とした働き方を無期限で延長する「Calbee New Workstyle」と題したニューノーマルの働き方や、モバイルワーク手当の支給、フルフレックスなどを行うとしています。

グループウェア開発で有名なサイボウズ株式会社は、自分の環境に応じて自由に働き方を宣言して決められる「働き方宣言制度」というユニークな取り組みを実施しています。社員の働き方を会社が決めるのではなく社員自身が細かく決められるのは、リモートワーク制度として画期的だといえるでしょう。働き方宣言制度と同時に各種福利厚生を充実させた結果、離職率を4〜5%程度に低く抑えるなど、社員満足度向上に成功しました。在宅勤務では上司が部下の勤務状況を確認できないことが最大のネックですが、サイボウズ株式会社では在宅勤務中の部下の状況をマネージャーが把握できる「ザツダン」を取り入れています。この取り組みにより、業務の進捗から社員のモチベーションまで把握できるようになり、より正確なマネジメントが可能になりました。



株式会社
資生堂では、化粧品メーカーにふさわしい女性向けのテレワーク制度を導入しています。資生堂は1990年に育児休暇を導入して以降、2003年に事業所内保育施設を開設、2016年から美容部員以外の国内の全社員を対象に在宅勤務制度を取り入れるなど、女性活躍を先進的に進めてきた企業です。「女性が活躍する会社BEST100」において3年連続で総合ランキング1位を受賞するなど、その取り組みは外部からも高く評価されています。その資生堂では、オンライン会議用に自動メークアプリ「TeleBeauty(テレビューティー)を導入。このアプリを使用すると、顔を映すだけで画面上の顔にメークができたり、顔色の補正や顔以外の部分をぼかしたりできるため、在宅勤務中の女性は素顔で会議に参加できます。このように女性の悩みを解消した在宅勤務を行っているのは、女性の働きやすさを重視する資生堂ならではといえるでしょう。

日本航空(JAL)は、2014年に在宅勤務制度を導入して以降、制度改善とトライアルを繰り返し、生産性向上に成功しています。現在では自宅や実家だけではなく、喫茶店や図書館などでも制度利用が可能となり、より自由度の高い在宅勤務になっています。パイロットやキャビンアテンダント、エンジニアなどは在宅勤務の対象外ですが、デスクワーク中心の間接スタッフ4000人は理由がなくても在宅勤務制度を利用できるため、幅広く利用されています。さらに、フリーアドレスの導入と20時完全退社等などのルールを策定して残業削減を実現すると同時に、働き方のニーズの多様化に対応できる職場環境を整備したことで社員満足度の向上も成功しました。

東急リバブル株式会社では、不動産業界としては珍し、2016年から在宅勤務制度の運用を開始しています。2015年に実施したトライアルでは、対象者の70%が「業務効率が向上した」と回答しており、サテライトオフィスの整備も進めるなど、その後も社員が働きやすい環境づくりを進めています。また、データを端末に残さないクラウドの仕組みを使ったパソコンを導入するなど、在宅勤務時の情報漏洩対策も行っています。

アフラック生命保険株式会社では、労働時間に幅を持たせた在宅勤務制度を導入しています。労働時間は朝7時から夜9時までの8時間であればどの時間からでも仕事ができるため、柔軟な働き方をすることが可能です。アフラックでは事前にスマートフォンやタブレット、専用のUSB機器を配布するなどして、全社員が在宅勤務できる環境を整備していました。また、個人情報の保護など、在宅勤務時のセキュリティ対も確保されています。アフラックは個人情報を取り扱うことが多い保険会社であるため、複数回の検討を通じてセキュリティ課題を洗い出すなど、在宅勤務の導入は慎重に行われました。その結果として、セキュリティ性を損ねることなく誰でも在宅勤務ができる環境を整備することに成功しています。ほかにも、全国9カ所にサテライトオフィスを構えるなど、自宅以外でも安全かつ落ち着いて仕事ができる場所を確保しています

日産自動車
は、生産工程以外の全社員を対象にした在宅勤務制度を2014年から導入しています。事前に社内ポータルサイトやeラーニング、メール等で啓蒙活動や情報共有を行った結果、男性社員や育児・介護期の従業員の在宅勤務利用が増加しました。日産自動車では、音声テレビ会議システムをフル活用して在宅勤務中の社員の顔をパソコン画面に映し、仕事の状況ごとに「連絡可能」「取り込み中」「応答不可」「一時退席中」など表示を切り替えることで、オフィスワーカーとの壁をなくす工夫がなされています。

在宅勤務の導入に成功した企業の共通点

在宅勤務を導入して成功した企業には、いくつかの共通点があります。その一つは、実際に在宅勤務を導入してみて、何度もトライ&エラーを繰り返している点です。実際に在宅勤務を始めると、必ずといっていいほど課題や問題が発生します。そのため、最初から一気に全社員を対象に導入を進めてしまうと、課題や問題を解決するが困難になり、在宅勤務の導入が失敗する可能性があります。在宅勤務を導入して成功した企業の多くは事前にトライアルを行い、そこで出た課題を洗い出して改善し、徐々に対象社員を増やしていく方法を採用しています。まずは育児・介護等の両立社員を対象にトライアルを実施し、次に事務部門の社員、次は営業職も含めた全社員を対象にするというように、段階的に導入しています。トライ&エラーを繰り返すなかで自社に合った在宅勤務のやり方を見つけ、従業員への告知なども行いながら、実際に制度化しているのです。

在宅勤務
中でも各部門やチームとの連携、同僚とのコミュニケーションなど、マイナスの影響が出ないような配慮もされています。社内SNSやビジネスチャット、Web会議ツールなどコミュニケーションを活性化するツールを早い段階から導入して社員に慣れさせておき、在宅勤務時のやりとりに利用するのです。ほかにも、社内外のあらゆる書類をクラウドで管理するペーパーレス化ツール、クラウドでデータを一元管理するなど、在宅勤務時でも通常の業務と同じパフォーマンスが出せるようなツールや業務プロセスを導入しています。このように、時代やビジネスの変化など、新しい環境に順応する準備ができている点が在宅勤務の導入に成功した秘訣だといえるでしょう。新しい変化に消極的で、柔軟に対応できる準備が進んでいない企業が在宅勤務を導入しても、成功させることは困難です。

在宅勤務
では、今までとはまったく違う働き方を求められます。パソコンの利用に慣れている人でも、自宅で作業することに違和感を感じるかもしれません。そのようや社員が感じる違和感や不安に随時対応できる企業であれば安心です。在宅勤務導入後も社員に任せっぱなしにするのではなく、導入してから起こる問題や不具合などにしっかりと対応できる企業であれば、自宅でも安心して働き続けることができるでしょう。

在宅勤務を始めるときのポイント

在宅勤務なら子育てと仕事の両立が可能になります。在宅勤務を積極的に導入し、社員の手助けをしてくれる企業であれば、自宅でもスムーズに仕事を始められるでしょう。しかし、すべて会社任せではいけません。在宅勤務で成果を出すには、本人の努力も必要です。

在宅勤務を
始めるときに重視すべきことは、自己管理です。在宅勤務は楽そうに見えるかもしれませんが、実際に始めてみると、時間管理が甘くなって仕事が思うように進まないことも多々あります。オフィスの環境とは異なり、自宅では人の目がないため、ついついサボりがちです。テレビやゲームなどの誘惑に負けずに仕事を続けるには、強い意志が必要になります。人の目がない中でダラけずに仕事をすることは想像以上に大変です。自己管理を徹底できていない、在宅勤務で成果を出すことはできないでしょう。

己管理を徹底させるには、環境の整備とスケジュール管理が必要不可欠です。まずは、自宅を仕事がしやすい環境に整えましょう。長時間座っても腰に負担のかからない椅子やデスクを用意すると、仕事に対する集中力もアップします。仕事用の個室を用意できない場合は、室内用テント (パーテーション)を購入するのも一つの方法です。デスク周りをテントで囲い、視界を物理的に遮断してしまえば、テレワーク専用の集中スペースが出来上がります。テントなら低コストで導入できるため、プライベートと仕事の空間を切り分けたいときにおすすめです。自宅では気が散ってしまいがちですが、このような簡単な工夫をすることで、仕事に没頭できる環境が整います。

時間を
管理するために、始業・終業時刻や休憩時間を事前に決めておきましょう。オフィスで働くときと同じように時間管理を徹底しましょう。自宅だと長時間仕事に没頭してしまうことも少なくありません。しかし、ダラダラと仕事を続けると睡眠時間を削ってしまい、心身の健康を損なう可能性があります。在宅勤務ではオンとオフをしっかり区別して仕事に取り組みましょう。

在宅勤務
を始めるにあたり、家族の協力を得ることも大切です。在宅勤務になれば、平日の日中も家で過ごすことになるため、家族がストレスを抱えてしまう可能性もあります。関係の悪化を防ぐためにも、仕事中はお互い干渉しないなど、事前にルールを決めておくと安心です。仕事中は部屋にこもって、他の家族には通常通りの生活をしてもらえば、仕事中に子供に邪魔をされることもありません。どうすればお互い気持ちよく過ごせるのかを考えて、よく話し合っておきましょう。

在宅勤務
を始めるときは、セキュリティ対策が必要不可欠です。企業の大切な情報を漏洩するようなことがあれば、信用問題に発展します。最悪の場合、解雇される場合もあるので、データの漏洩には細心の注意を払いましょう。セキュリティの取り組みは企業によって異なりますが、自分でもできる限りのことはしておく必要があります。OSやソフトウェアのバージョンは常に最新状態を維持する、パスワードの使い回しは避ける、許可されていないソフトウェアを利用しない、不審なメールに添付されたファイルやリンクを開かないなど、オフィスで働いていたとき以上に注意を払って行動しましょう。在宅勤務を始める前に、企業とセキュリティ対策について情報共有しておくことをおすすめします。

在宅勤務は段階的に取り入れよう

在宅勤務の導入に成功している企業は、事前にトライアルを実施し、段階的に導入しています。一度に導入すると失敗に繋がりやすいといえるでしょう。在宅勤務の制度が充実している企業であれば、自宅でも安心して働き続けることができます。企業によって在宅勤務の取り組み方は異なるので、事前によく確認しておきましょう。

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