栗田宏美さん|夫の海外赴任をきっかけに、キャリアの視野が広がった

企業の海外進出などがすすむ中、海外で働く人が増えています。キャリアを持つ女性にとって、ご主人の国内外への転勤が決まった場合、転勤先に一緒に行くか、もしくはご主人には単身赴任してもらって一人で仕事と家事・育児を切り盛りしていくか、その選択は悩むところ。そこで今回は、昨年からご主人が海外赴任中という株式会社クレディセゾンの栗田宏美さんに取材させていただきました。夫不在の中での子育ての仕方や、今後の展望をお聞きしました。

夫がイスラエルに海外赴任!考えた末に出した答え

私には現在3歳の息子がいて、0歳から自宅と遠方の保育園間を送り迎えする地獄のような電車通園をしていました。しかし運よく1歳で近くの保育園に転園。家事と育児を分担しながら仕事に邁進する生活を送っていました。 そんなときに昨年、自分のキャリアの幅を広げるべく新しいことに挑戦したいということで異動が決まった矢先、なんと夫も海外赴任することになりました。

もともと、昨年の1月くらいに夫から「海外でのキャリアを希望している」と相談を受けてはいましたが、通常年齢が上の社員の方が海外へ行くケースが多く、正直そんなにすぐに赴任になるとは思っていませんでした。現実になるまでは「もし海外に行くことになったらついていってもいいかな」くらいに軽く考えていたと思います。そうした具合でちょっと油断していたところに、2月の初旬、夫が「イスラエルに行くことが決まった!」と大喜びで帰って来て。夫の希望が叶ったことはよかったのですが、私も異動が決まったばかりで複雑な心境でした。

内心では「これから益々仕事が面白くなるところなのに」と思っており、咄嗟に「ごめん、私、すぐに行けない」と答えてしまいました。そこからは夫と2人で幾度となく話し合いを重ね、結局、私と夫双方が譲歩しあえる方法として「一年後に私と息子もイスラエルに行く」という妥協案が生まれたのです。 夫の赴任期間は3年と決まっていて、長期休暇も任期中に何回かもらえることになっていたので、もしかしたら、このまま単身赴任で3年くらいすぐ過ぎてしまうかもしれないなという気持ちもありました。

ただ、やはり海外に一人というのは思った以上に寂しかったようで、猫まで飼い始めてしまったくらいなんです(笑)。私へのイスラエル誘致施策だと本人は言っていますが、そうした夫の様子を見ていて、やはり私たち親子もイスラエルに行ってあげたほうがいいかな、と考えていました。

実母が58歳で東京に転職。心強い助っ人に!

2018年6月に夫がイスラエルに行った以降、私と息子と2人の生活が始まりました。最初の2ヶ月間は本当に辛く、怪我をして救急車で運ばれた時には、近所の後輩にお願いして息子を保育園に送ってもらい、近所の先輩ママにお迎えに行ってもらったり、同僚たちにご飯を作ってもらうなどたくさん支えてもらって乗り切りました。

子育ても大事だけど、仕事も全力でやりたい。そのためには、この状況を変える必要があると思い、和歌山の実家で共働きしている両親に相談しました。それで結局、母が東京に転居してくれることになったのです。母が東京に来る目的は私のサポートという側面ももちろんあったのですが、母のキャリアチャレンジのためでもありました。もともと母は障害者就労支援の仕事をしたいという強い希望があったのです。ただ、前職ではなかなか希望する業務につけず、能力を活かしきれずにいました。

そこで、東京ならそうしたニーズがあると思い「こっちに転職してみたら?」と薦めてみたんです。そうしたら母も「オリンピック見てみたいし、東京に行こうかしら……」と前向きに考えてくれて。母は今年59歳になりますが新しい職場も見つけ、この3月に障害者グループホームの現場責任者になりました。 やはり母がいてくれるとすごく心強いですし、現在は保育園の送りは私、お迎えは私と母がなるべく交代で行くようにしています。母にはもちろん、周囲の人に助けられて、さまざまな面で本当に助かっています。

視野が広がり、イスラエルのことをもっと知りたくなった

これからの私の希望としては、イスラエルと日本を行き来しながら今の会社で仕事を続けたいと思っています。ただ、会社としてもそういった前例がなく、現在イスラエルに支社があるわけでもありません。自分でも会社に無理なお願いをしているのはわかっています。ただ、実際に相談してみたことで、上司をはじめ役員の方々にも具体的に検討してもらえることになりました。

私が仕事を続けることを希望したのは、どうせイスラエルに行くのなら英語を使って仕事をして、なにか自分でも生み出していきたいと思ったからです。修学旅行を含めて海外旅行に2度しか行ったことが無く、海外にまったく興味が無かった私にとっては、とても大きな変化でした。

昨年末、人生3度目の海外旅行で息子を連れてイスラエルに行ったのですが、イメージを覆す良い国でした!地中海に面していてキレイな海とビーチ。エルサレムはユダヤ教とキリスト教、イスラム教の聖地で、ゴージャスな「岩のドーム」はもちろんのこと、旧市街の佇まいには圧倒されました。また食文化もわりと日本人向きで、美味しいフルーツとバリエーション豊かな乳製品、フムスやシャクシューカなどのイスラエル料理も気に入りました。

昨年末初めてイスラエル訪問。後ろは地中海

そして、イスラエルはスタートアップ大国と言われていて、年間600社以上のスタートアップ企業が生まれる国。イスラエルに縁のある様々な人とお会いしたり、本を読んだりして情報を集めていくうちに、イスラエルの歴史的背景や国策も少しずつ理解してきました。軍事技術の商用転用で、イスラエルにはたくさんの先進的技術を持つ企業が次から次へと生まれます。テルアビブ大学は、起業家輩出・調達金額の世界ランキング10位以内に入っています。そういった国に実際に住むことで、スタートアップ企業の中から投資先を検討したり、高い技術力を持った企業とのコネクションを作ったり、なんらかの形で会社だけではなく「日本社会」に貢献できるのではないかと思っています。

イスラエルで有名な「岩のドーム」に訪れた際

 私は1日でも長くマーケターとして人生を楽しみたい。そのためには英語が使えたほうがより自分の力になるなと思いました。そして、これは英語を本格的に始めるいい機会だと考えて、昨年の6月から習い始めました。同じマンションに住んでいる国際協力機構(JICA)の通訳士さんに、週に1回以上みっちり90分、自宅で息子と一緒にレッスンを受けています。そうしているうちに、上司が英語を使う仕事を徐々に任せてくれるようになり、現在は毎日なんらかのビジネスメールを英語で書いています。

「コミュニケーションから逃げない人たち」に支えられて、拓けてきた道

今までの時代は、夫の海外赴任が決まると妻は会社を辞めてついていくのが当たり前の時代だったと思うのです。でもこれからは、状況を最大限いかして、自分から仕事を創り出していくのもありかなと思っています。今回も、私がイスラエルで仕事をしたいという希望を上司たちにしっかり伝えて、さらに上司たちも逃げずにドンと向き合ってくれて、全面的に応援してくれました。

とても恵まれていると思いますが、上司たちが応援してくれたことが、色々なものを少しずつ動かして、ここまで来たという感じです。ひとりでは何も出来なかった。働くための手続きや、会社人としてのミッションなど、解かねばならない問いはまだありますが、1年前に比べたらものすごく変化しています。コミュニケーションすることを、私か上司たちのどちらかが諦めてしまっていたら、ただ会社を辞めるという流れになっていたと思います。

キャリアに悩む女性にアドバイスするとすると…、「交渉すること」と「考えること」は諦めないようにして欲しい。「私はこうしたい!そして、それはあなた(組織)にとってもこれぐらい良いことがあると私は思いますが、あなたはどう思いますか?」と、問いかけ続けるということです。もちろん、とことんまでやって折り合わない場合は、それはそれで仕方ないんです。ただ、実はけっこう「面倒くさい」とか「言いづらい」といった理由から、とことんまでやる前に諦めてしまう人が多いのではないかと思います。

ですからコミュニケーションをとることからは、私は逃げないようにしています。かなりめんどくさくてしつこい奴なので、こんな私を受入れてくれるのは懐が深い人ばかり。だから、自然と「コミュニケーションから逃げない人たち」に囲まれているのかもしれません。

右が直属の上司:中岡淳さん、中央が取締役:磯部泰之さん。昨年登壇したad:tech tokyoにて。