秋庭麻衣さん|人生のビジョンは「仕事と子育ての両立をサポートすること」 子育て中も安心して働けるビジネスモデルを確立

秋庭麻衣さんが設立した株式会社LIFULL FaM(ライフル ファム)は、Webマーケティングの企画から運用まで幅広く対応する受託業務を行いながら、子育て中のママが未経験でもスキルアップできる仕組みを展開しています。本社は、東京・目黒区の閑静な住宅街に建つ庭付き一戸建。その1室を子ども部屋にあて、保育の有資格者が常駐しています。子育て中の女性に特化した独自のビジネスモデルへの思いや今後の課題などについて伺いました。

自らの体験から、進むべき道が見えてきた

入社1年目に出産したので、キャリアの形成はほとんど子育てしながらでした。 育休が明け、時短勤務で復帰。当時の社内にはそれまで育休を取る人がいなかったこともあり、子育て中の女性をサポートする制度は、法律で定められているものしかありませんでした。そのなかで子育てと仕事を両立させていくことがとても不安だったので、復職の挨拶に出向いた折、社長に今後の他の社員のためにも、子育て支援の制度を作りたいと話しました。

もともと、どの社員の声もきちんと聞いてくれる方で、じゃあやってみなさい、と。 さっそく社内で協力者を募り、ワーキンググループを作って制度づくりを進めました。他社の制度や事例を調べてみると、せっかく制度が整っていても周りの目が怖くて使えない、というケースがあり、制度そのものだけでなく、制度が利用できるような企業風土作りも重要だと考えました。 そこで、制度策定の過程で多くの社員を巻き込みながら作っていくことを重視し、その結果、社員の制度への理解が進み、制度を利用しやすい風土もしっかりできていきました。

制度が整ったことはもちろんですが、そのプロセスにも大きな意義があったと思います。この経験を通して、ゆくゆくは何か事業で子育てと仕事の両立を支援していきたい、と考えるようになりました。

お母さんの働きやすさを最優先に

育休が明け数年経った後子育てと仕事の両立支援を具現化する新規事業を提案。年間100〜120本のエントリーがある新規事業提案制度で優秀賞を受賞し、事業化の採用が決まり、私のビジョンがいよいよ実現することになりました。事業内容は何度か変遷していますが、「子育てと仕事を両立したい女性をサポートする」というビジョンだけは絶対にブレない軸として持ち続け、起業してから4年経ちました。

株式会社LIFULL FaMのビジネスモデルは、「子供が小さくても働きたい」というママにいろいろな就業形態で登録してもらい、グループ内外から受注した案件を、キッズスペース付オフィスで個々のスキルに合わせて担当してもらう、というもの。子どもの年齢によって働ける時間が違いますし、成長によって変化します。そのたびに仕事を辞めなければならず、長期的なキャリアを築けないことが課題だと思っていました。それを解消したいと思ったのです。

就業形態は現在、業務委託・契約社員・正社員の3種類。子供が小さいうちは業務委託を選ぶ人が多いですね。業務委託は「この日までにこの量を終わらせる」という仕事の振り方で、たとえば、出勤して仕事しようと思っていたけど子どもが急に熱を出したから明後日に替えます、といったことが柔軟にできます。 オフィスは東京・自由が丘と福井県の鯖江にもあり、東京は特に業務委託で働いている方が多く、ほとんどみんな近所に住んでいます。そのため、仕事の途中で下の子を迎えに行き、下の子を連れてもう一度出勤、という働き方をしている人も多いですね。在宅勤務を組み合わせてもOKです。

子育てしながらキャリアを築けるように

出産してからも働く女性が増えてきたとはいえ、キャリアを着実に築いてきたのに保育園に入れず仕事を辞めざるを得ない人も多く、埋もれている貴重な人材が多いことに課題を感じていました。もちろん、子どもが小さいうちは一緒にいたいという選択肢もあると思います。でも、そのような人たちが、子どもの手が離れてからいざ働こうとすると、今までのキャリアを活かせない仕事や、たとえ就きたい仕事が見つかっても、未経験ではなかなか採用されないことも課題だと思っていました。

それならば、子育ての期間をブランクにせず、子どもと一緒の時間を持ちながらキャリアを築いていける形を実現したものがLIFULL FaMです。 未経験でもどんどん挑戦してもらうことで、スタッフたちは「初めてのことなのに、いろいろ任せてもらってすごくうれしい」と口々に言ってくれます。仕事が楽しいと自分でどんどん研究して、もっとよくしていこと思えますよね。そんな内発的な動機付けが相乗効果を生み、全体がうまく回っているのです。

もともとキャリアのある人に活躍できる場を、と思っていましたが、働いた経験のない専業主婦だった人のポテンシャルがすごく高いことが私にとっても、すごく意外でした。何よりも仕事が楽しい、という気持ちが大切ですね。

「人が幸せになる仕事」を地方に拡大

会社の規模が小さいので仕事の幅も限られているため、みんながみんな「したい仕事」ができているか、全員にチャンスがあるのか、といわれると、必ずしもそうではないと思っています。 でも、うちで働くことを幸せだと言ってくれる、幸せそうに働いてくれるお母さんたちをそばで見ていられるから続けられるし、大きなやりがいにつながっています。

Webの仕事は住む場所に関係なくできることが多くありますが、地方には働き先があまりないという現状があります。これからは鯖江だけでなく他の地方にもどんどん展開して、子育て中の女性の雇用創出とキャリア形成をサポートしたいと思っています。実際、宮崎にも展開する計画あります。 LIFULL FaMに限らず、リモートで働けたりフレキシブルな働き方に対応したりする企業も増えてきています。働きたいと思ったら、あきらめずにいろいろな情報を調べ、自分に合った働き方を見つけてほしいですね。

子供が小さいうちは、病気などで休むことも多く、大変なことは絶対にありますが、それを乗り越えていきたいと思えるほどの好きな仕事、楽しい仕事に出合えるといいですね。 出合うためには、いろいろなことにチャレンジすること。「私にはできない」「無理だわ」って思っても、やってみたら意外にできることもあります。いきなり大きなチャレンジは難しいと思いますが、少しずつ新しいことにチャレンジしてみるのはいいことですよね。